各事業体で中堅の役割を果たす林業従事者が、新人への指導方法を学ぶ
くまもと林業大学校では、県内の林業現場で活躍する熱意ある林業従事者に向けた「専門課程(中上級)」を開催しています。同コースは全10日の日程で、林業の現場である程度経験を積んだ中堅の林業従事者を対象に、基礎的な技術を再確認し、第一線で効率的な作業や指導ができる人材を育成することを目的に実施しています。令和3年度は8月の開講式を皮切りに、各分野の第一人者を招いて「話し方・接し方コミュニケーション術」「林業技術を『言葉』で伝える」「先進林業事業体視察」「高性能林業機械等による効率的な作業システム」「木材市場動向及び新たな需要開拓について」の教科を設け、講義やワークショップ、実習、視察を学びます。
全10日間のうち8月25日~27日、9月8日~10日の計6日間実施した「林業技術を『言葉』で伝える」では、分かりやすい言葉遣いや筋道を付けた説明の仕方などを講師と受講生で考えながら、今まで自分が身に付けた技術などの感覚的な部分を、新人に対していかに論理的に伝えるかを学びました。最終日の9月10日は、県内各地から3名の受講生が集まり、今年4月に林業事業体に就職したばかりの2名を「教えられ役」に迎え、林業で最も使用頻度の高いチェーンソーの目立てを教える実習を行いました。
講師を務めた「Woodsman Workshop合同会社」代表・水野雅夫氏の指導の下、「教えられ役」の2名に、受講生自らが実践して見せたり、気をつけるポイントを指摘したりしながら、ヤスリを使ってソーチェンの刃を研ぎ、最後にノギス刃の長さなどを確認しました。その後、丸太を輪切りにして研いだソーチェンの切れ味を試し、刃の入り方や振動の大きさ、断面、切り出されたおが屑の均一さ、粗さなどを確認して目立ての正確さを確認。「指導役」となった実務経験を持つ受講生も、自分の目立ての精度を改めて見直すとともに、より安全に生産性を上げるための日ごろのトレーニングや正しい指導法の重要性を再認識しました。
桧丸株式会社の山辺龍之介さんは、自分のイメージや技術を人に教える難しさを実感。「より具体的な説明や、相手の理解度を見ながら話すことを学べた」と感じています。普段、自身が目立てを行う際でも刃の長さを計測することはなく、「数字を測定し、具体的に示すことの重要性を認識した。今までアバウトだった部分を改め、データに基づいた方法なども、相手に見るポイントをしっかり伝えた上で教えたい」と話します。また、自身が教えられたアバウトな方法や根性論は間違った指導方法で、理にかなった教え方をした方が上達スピードも格段に早くなると痛感。「せっかく林業の道に進んだ新人には、少しでも長く従事してほしい」と、今回の研修を今後の指導に生かすつもりです。
國武林業の増永匠太さんは、今回初めて指導者研修を受講。これまで後輩への指導は、先輩に教わったやり方や自分なりのやり方で教えていましたが、「今回の研修でさまざまな課題が見えた」と振り返ります。道具や動き方について相手に説明しても、納得していなければ理解できないので、「ただ『見て覚えろ』ではなく、どこを見ると良いかなど、相手の立場にたった声掛けや説明が必要」と話します。ソーチェンの目立てについても、今まで自身で行う際、安定しない場所で固定もせずに行い、角度もバラバラだったことを反省。良い刃の作り方などが「新たに学べた」と、研修を通じて手応えを摑みました。事業体に戻ったら早速、今回学んだことを後輩に伝え、研修で得た成果を試す考えです。
今回、「教えられ役」として参加した梅本林業・手﨑真吾さん。今年6月に東京から阿蘇へ移住し、林業従事者になったばかりの新人です。自然の中で仕事をすることに憧れ、チェーンソーや刈り払い機などを使った仕事に興味を持っていました。今回「教えられ役」として受講者から目立てを教わり、林業をする上での基本の一つを習得。「今後の仕事の糧になった」と充実した表情を浮かべます。指導役の受講生と分からないことを共有しながら、「人それぞれの受け取り方や学び方、捉え方などの違いも知ることができ興味深かった」と話します。その上で、テキストよりも言葉で分かりやすく説明され、さらに実践で体感して教わる方が、身に付く速度が格段に早いと実感しました。また、研修を通して他の事業体で働く仲間とも知り合え、得るものの多い研修だったようです。
今回のテーマ「林業技術を『言葉』で伝える」で講師を務めた「Woodsman Workshop合同会社」代表の水野雅夫さん。目的は、受講者が体得した技術や自分が持つイメージを、林業初級者にどう伝えるか。「伐木、ソーチェンの目立てなど、自分のやり方が正しいのかを見直し、教える言葉や表現、手の取り方やお手本の見せ方などを考えてほしい」と話します。これまでの林業業界は「見て覚えろ」という体質だったものの、「(林業は)見て覚えられるほど簡単ではない」と水野さん。そうした言葉は、正しい指導方法が分からなかったり、指導力のない人が、それを誤魔化す言い方だと指摘します。その上で、「初級者はできないのが当たり前。せっかく林業を選んだ人たちが戦力になるよう指導できる指導者の育成が急務」と指導者研修の重要性を説きます。「熊本県は他県に先駆けて指導者研修を始め、才能ある指導者も着実に育っています。その人たちに、さらに次の指導者を育ててもらえれば」と、県の林業人材のスキルアップに期待を寄せます。