林業への転職・就業を検討している方を対象に10日間の日程で開催
研修は、9月27日~10月1日、10月4日~8日の計10日間にわたって県南地域において、就業に必要な基本的な知識(森林と林業をめぐる動きや、山村地域と林業従事者の現況、林業における危機管理等)を学び、刈払機とチェーンソーの資格講習を受講したのち、現場での操作実習や関係施設の見学を行いました。
研修9日目を迎えた10月7日の研修科目は、「林業関係施設の見学」。参加者たちがまず向かったのは、人吉市内で工事が進められている家屋の新築現場。球磨プレカット株式会社の橋本龍一社長の説明を受けながら、家屋に使用される木の種類や特徴を学び、種類によって部材が使い分けられていることなどを学びました。参加者からは、近年のウッドショックによる価格高騰が建築現場にもたらす影響についてなど、積極的に質問が飛んでいました。
続いて、湯前町にある球磨プレカット株式会社へ。会社の歴史などについて橋本社長の話を聞いた後、小田敬司工場長の案内で、プレカット工場で木材がどのように加工されているかを見学しました。午後は、水上村にある上球磨森林組合を訪問。製材所に足を運び、巨大な原木が次々とカットされていくラインを見学しました。1本の木からさまざまなサイズの材ができることや、出荷までの過程を学びました。その後は共販所へ戻り、集出荷センター・大石敏所長から市場や競りの仕組みについての話を聞き、最後は模擬入札を行ってこの日の研修を終了しました。
木材の流通プロセスを川下からたどっていく流れでしたが、林業を志す参加者にとって、知っておくべき過程を学べる有意義な施設見学となりました。
自伐型林業に興味があり、過去に地元・美里町で行われた2日間の研修に参加したことがあるというMさん。その体験から林業への関心が高まり、今回の就業支援研修に参加したと言います。「近年の自然災害の多さや、山の手入れができていない現状をどうにかできないかという思いもありました。下刈りなども今まで見よう見まねだったので、基本的な知識と使い方を勉強できてよかったし、流通の流れを見て、現場で働く方の声を聞けたのも勉強になりました」とMさん。何の知識や経験もなく現場に出るのではなく、「施設見学なども通じて得た経験を、今後に生かしていきたい」と話していました。
特殊伐採や造園の仕事に携わっているOさん。山林を所有する知人から、「植林して時間が経ち、伐採の時期が来ているが、手を入れられずに荒れている」という話を聞き、自伐型林業に関わっていく可能性を探れればと、流通の現場なども見られる今回の就業支援研修に参加。「森林組合がどんな仕事をしているのか、切った木がどう加工されて流通しているのか、個人では知り得ないようなことなど、現場へ行ったからこそ分かったことがありました。他の参加者との交流を通して、さまざまな視点があることも学べました」と話し、自身の今後の仕事についても具体的なイメージを膨らませるきっかけになったようです。
「環境保護やボランティアとは違う形で自然に関わりたい」との思いを持っていたTさん。熊本県林業従事者育成基金が実施している2日間の研修に参加した経験もあり、「より専門的なことを学べるなら」と、今回の就業支援研修に応募しました。これまで、「女性だから」と周りの男性にチェーンソーの使用を止められてきたそうですが、「座学もとても充実していて、正しい使い方を学ぶことが危機回避につながると痛感しました」とのこと。流通過程も含めた林業の現場に触れ、「オートメーション化も進んでいて、男性だけの仕事ではないことも学べました」と、パートタイムや季節従業員のような形態も含め、林業に関わる事業体への就業を具体的に検討する思いを強くしていました。
土木関係で石積みの仕事に従事しているHさんは、関心はあるものの実態をよく知らない林業の一端を体験してみたいと参加。「石を切るのと木を切るのは違いますが、一つ一つの作業に集中しなくてはいけない点では共通点があった」と研修を振り返ります。「昔ながらの仕事」というイメージに反して機械化が進んでいることに驚きを感じた一方で、「山に入れば人の手が必要で、仕事自体も命懸け」であり、安全対策の重要性、そして山林を管理することの大切さを再認識したと言います。「何十年もかけて木が育てられていることを改めて感じ、一本一本に真剣に向き合い、未来につなげていくことが大事」と話していました。
プレカット工場見学の案内をしてくださった球磨プレカット株式会社の小田敬司さん。「木がどのように伐採されて、どう使われているのかを知らない方も多い。そのプロセスを知っているのと知らないのでは、木の育て方も変わってくる」と言います。また、今回の研修参加者らが実際に林業に就業しなくても、プレカットや製材の現場を見学したことで「より多くの人に知ってもらえる機会が広がる」と期待を寄せます。「熱心に話を聞いてくれただけでなく、質問も活発にしていただいて、案内した甲斐がありました」と、参加者の意欲的な姿勢に満足げでした。
「一番知ってほしかったことは、ケガなく仕事をすることの大切さ」と話す上球磨森林組合集出荷センターの大石敏さん。「他の仕事と比べてけがのリスクが高く、それが原因で離職していく人もいる」という現状を踏まえ、それでも興味を持ってくれる参加者がいることに喜びを感じていました。「今回来てくださった皆さんのような若い就業者が増えていけば、林業界の労働力不足の解消や労働環境の整備にもつながると思います」。林業への就業の道筋を広く知ってもらうことにもつながる林業大学校の取り組みに対しても、「大変ありがたい」と話していました。